長谷川栄雅と「日本の美」

2021.03.10

形を変えて愛される「簪(かんざし)」


晴れ着を身に纏った女性の髪を、華やかに飾る「簪」。その起源には大きく2つの説があります。一つが、縄文時代にお守りや魔除けとして使われていたというもの。この時代には、先端が尖った細い棒に力が宿るといわれており、人々が髪に挿していた棒「髪挿し(かみざし)」から発展したという説です。そして、もう一つが平安時代の神事などの際に、貴族が花や枝を頭髪に飾っていた「花挿し(かざし)」がもとになったとする説。平安時代中期に書かれた『源氏物語』にも「花挿し」という言葉が見られます。

現在のような髪留めの形となったのは、奈良時代。中国から櫛の原形となるものが伝わり、それが簪と呼ばれるようになりました。そして日本人も中国人と同様、男女関わらず髪をまとめる「結髪」が主流になりますが、その後は遣唐使廃止などの影響もあり、日本では髪を長く垂らす「垂髪」が多くなったことから、簪はあまり使用されなくなりました。

しかし、安土桃山時代、歌舞伎の創始者・出雲の阿国を真似て結髪にする女性が多くなり、簪は再び重宝されるようになります。さらに江戸時代になると「日本髪」の発達に伴い、装飾を重視したものに。花びら簪など多様な簪が作られ、蒔絵や螺鈿(らでん)など高度な技法も用いられるようになります。

明治時代からはガラスなど素材にも工夫が見られ、西洋風のデザインが人気を博しました。以降、日本でも洋髪にする女性が多くなり、簪は以前より使われる機会は少なくなりましたが、現在では洋装に合うものが登場するなど、時代の歩みと共に、その形を変えて愛され続けています。