長谷川栄雅と「日本の美」

2020.11.04

時代の移ろいに寄り添う「信楽焼」

毎年11月は「伝統的工芸月間」です。これは日本の伝統的工芸品の魅力をより広く発信するために経済産業省が定めたもので、脈々と受け継がれてきた歴史と技を伝える、さまざまなイベントが全国で開催されます。

その伝統的工芸品の一つで、昨年の朝の連続ドラマ小説でも話題になった焼物が滋賀県甲賀市信楽町で作られる「信楽焼」です。奈良時代に聖武天皇が紫香楽宮(しがらきのみや)を造るにあたって、瓦を焼いたのが始まりといわれ、「日本六古窯」の一つに数えられています。日本六古窯とは鎌倉時代以前から現在まで続く、代表的な産地の総称で「信楽」の他に、「越前」「瀬戸」「常滑」「丹波」「備前」から構成されます。その中でも信楽焼は最古の焼物といわれ、土味を生かした素朴な風合いが特徴です。

時代ごとに主力作品が移り変わる様は、まさに日本の文化・技術の変化を表しており、鎌倉時代には水瓶や種壷、室町・安土桃山時代には茶道具の名品が多く生まれました。また江戸時代になると登り窯によって茶壷などの生活雑器が作られ、大正時代から第二次大戦前までは火鉢が作品の中心に。現在では、食器や花器など暮らしに根ざしたものが盛んに作られています。

そして信楽焼といえば、有名なのが狸の焼物。1951年、昭和天皇の信楽行幸の際、沿道に狸が並べられた光景が全国に報道されたことから広く知られるようになりました。その愛嬌があり、どこか憎めない姿は「八相縁起」と呼ばれるもの。これにちなみ11月8日は「いいハチ」で「信楽たぬきの日」とされており、信楽町ではこの焼物に感謝して新たな福を願います。