長谷川栄雅と「日本の美」

2020.10.07

曲げわっぱの味わい

穏やかで心地よい天気の日が多くなり、例年であれば観光シーズン本番を迎える、この季節。しかし、今年は遠出するのが難しそうです。それでも童心にかえり、近場の公園や自然へ足を伸ばしてお弁当をいただくだけで、気分は朗らかになるもの。そんなひとときを少しでも楽しむために、お弁当箱にこだわってみてはいかがでしょうか。

素材に用いられるスギやヒノキの木目とゆるやかに描かれた曲線に、素朴でやさしい温もりを感じる「曲げわっぱ」。その魅力は見た目だけではありません。

木が持つ調湿作用によって、余計な水分を吸収してくれるため、ご飯は冷めてもふっくらとしたまま。さらに夏は保冷、冬は保温の効果も期待でき、まさに自然本来の見た目と働きで、食事に一層の豊かさをもたらします。

特に産地として有名なのが秋田県・大館市。1980年に国の伝統的工芸品に指定された「大館曲げわっぱ」は、北国の厳しい自然に耐えて育つ天然秋田杉を使用し、伝統の技を受け継いだ職人が一つひとつ手作りしています。

その始まりは奈良時代、同地に暮らしていたマタギが杉の木を曲げ、桜皮で縫ったお弁当箱を作ったことが発祥と伝えられています。なお大館郷土博物館には10世紀初頭のものと推定される「曲げわっぱ」が所蔵されていますが、現在のものとほぼ同じ形をしているというから驚きです。以降、「大館曲げわっぱ」は時代を超えて脈々と受け継がれ、17世紀には大館城主・佐竹西家が下級武士の内職として製作を奨励し、発展を遂げました。

この他にも長野や奈良など日本各地で、地域の風土と人々の手によってその歴史が育まれてきた「曲げわっぱ」。近頃では定番のお弁当箱やおひつに加え、酒器やマグカップなど現代の暮らしに寄り添った道具も豊富にそろっています。