2022.11.17
日本の掃除文化を形づくってきた「和箒」
海外と比べて街の中がきれいで、清潔だといわれる日本。その掃除文化の根底にあるものの一つが、「和箒」です。かつて神具として崇められた箒が、生活に身近な道具になるまでの歴史などを辿ります。
古墳時代にまで遡る和箒の歴史
古い歴史を持つ、和箒。その詳細な起源は判明していませんが、長い間、現存する日本最古の箒といわれていたのは正倉院に残されている『子日目利箒(ねのひのめとぎのほうき)』でした。しかし、2004年に奈良県橿原市の「西新堂遺跡」から古墳時代中期の箒が出土。長さ45cm、幅3cmのもので手箒と考えられており、より古い時代から箒が存在していたことがわかっています。
かつて箒は「ははき」と呼ばれ、主に神具として扱われており、掃除に利用されるようになったのは平安時代。宮中で年末の煤払いの際に使われたのが始まりでした。その後、室町時代には「箒売り」という職業が生まれるほど、急速にその存在が広まりました。
江戸時代になり畳が庶民にまで普及すると座敷箒が誕生。毛先がしなやかで柔らかいものが好まれるようになり、棕櫚の木の皮から作られた棕櫚ほうきが人気に。また、ホウキモロコシという草から作られた箒は、掃くと油分で畳に艶が出るため評判を呼び、現在でも江戸箒や中津川箒といった座敷箒は、この草を原料にしています。
神具や信仰の対象とされた箒
神具として利用されていた箒には、さまざまな逸話が残っています。『古事記』や『万葉集』といった古い書物には「帚持(ははきもち)」、「玉箒(たまははき、たまばはき)」といった名で、天照大神の神話や大伴家持の歌に登場しています。
先述した正倉院の「子日目利箒」も、神具の一つ。この玉箒を揺らすと魂が活発になり、邪気を払うと考えられており、古代中国に倣って養蚕の儀礼に用いられていました。
また、庶民の間で箒は「払う・清める」という行為から、「箒神(ははきがみ)」という出産の神様が宿るといわれ、妊婦のお腹を箒で撫でて安産を願うという信仰も。また、魔を払うために亡くなった人の横に置いたり、葬列の先頭で掲げることもあったそうで、これらのように箒が神聖なものと伝えられてきた歴史も、日本特有の掃除文化を形づくった大きな要因かもしれません。
現代の暮らしにふさわしいと再注目
掃除機の登場や畳の減少、洋室の増加などによって、その数を減らしている箒ですが、近年ではその価値が見直されています。大きな理由の一つは、環境やからだに優しいため。電力を使わない点や、掃除機のように排気がないことから子どもやペットがいる家庭でも安心と重宝されています。掃除機と比べて、さっと取り出して簡単に使える点も魅力です。
ちなみに箒は畳の目やフローリングの溝に沿って穂先を立て、時折向きを変えながら押しつけないように掃くのがポイントです。これまであまり箒に馴染みがない人も、今年の大掃除の際に試してみてはいかがでしょうか。