長谷川栄雅と「日本の美」

2022.03.18

1300年以上の歴史を持つ「奈良墨」

国産の墨のほとんどが、奈良県で作られている「奈良墨」ということをご存知でしょうか。この墨は不純混合物がほとんど含まれていないため、深い艶のある漆黒であることが特徴です。
その歴史は806年に空海が筆とともに墨の製法を唐から持ち帰り、写経や経典の記述に使うため、興福寺二諦坊で作るようになったのが始まりとされています。
奈良墨が名を知られるようになったのは、織田信長、豊臣秀吉が隆盛を誇った戦国時代。墨作りを管理していた寺社の力が弱まり、職人の中には店を構える人も現れました。さらに豊臣秀吉が始めた日明貿易によって菜種油が伝来すると、それまで墨の原料として使用されていた胡麻油より安価で加工しすやすかったことから、より多くの奈良墨が作られるようになりました。
奈良が幕府の直轄地となった江戸時代には、町に30軒を超える墨屋が軒を連ね、その品質の高さが評判に。その後、明治時代には近代教育の拡大により需要が高まり、全国に普及しました。
なお、繊細な技術が必要な奈良墨の工程は現在でも機械化することができず、伝統の技を受け継いだ職人の手によって作られています。