長谷川栄雅と「日本の美」

2021.11.20

庶民は味わえなかった「漬物」

千枚漬けや奈良漬けなど各地で素材を活かした味わいが作られ、日本酒とも相性がいい「漬物」。その歴史は古く、奈良時代には野菜を塩漬けにして保管していたという記録が残っています。その後、中国から多彩な文化が伝わると味噌や醤油、醪に漬け込むなど、漬物も多様な形に変化しました。しかし、当時は貴族など一部の人しか口にすることができず、平安時代中期に編纂された『延喜式(えんぎしき)』には、宮中の儀式や宴に野菜、果物、山菜などの漬物が登場します。

室町時代になり武士の世が幕を開けると、梅干しが戦時の携行食として重宝されるように。また、茶の湯で振る舞われる懐石料理では、ご飯と漬物で食事を締めくくる習慣が根付きました。

江戸時代になると「香の物屋」といわれる専門店が江戸や京都、大阪に誕生し、漬物は庶民にも広まりました。ちなみに漬物を「香の物」と呼ぶようになった理由は諸説あり、平安時代に香りを当てて楽しむ聞香(もんこう)から、室町時代に宮中に仕える女官が使っていた「女房ことば」から生まれた言葉などといわれています。