長谷川栄雅と「日本の美」

2021.07.19

優しい音色で涼を運ぶ「風鈴」

「ちりんちりん」という優しく軽やかな音色で、暑い夏に一時の涼をもたらしてくれる「風鈴」。その原型は中国から仏教などと共に伝わった「風鐸(ふうたく)」といわれています。しかし、風鐸は青銅が素材だったこともあり、音色を楽しむためのものではなく、占いや厄除け、魔除けの道具として用いられていました。また当時の日本では伝染病や邪気を風が運んでくると考えられており、その音が届く範囲は災いから守られると信じられ、寺社の四隅の軒などに吊されていたそうです。平安時代頃になって、風鐸は風鈴と呼ばれるようになりました。

風鈴の音色を人々が楽しむようになったのは江戸時代。西洋から長崎へガラスが伝わり、ガラス製の風鈴が作られるようになりました。当初は高価だった風鈴ですが大量生産が可能となって庶民にまで広がると、浮世絵に描かれたり、屋台に吊した「風鈴蕎麦」が登場したりと一躍人気になり、暮らしに身近な物として定着しました。風鈴は住宅の縁側がある南西の裏鬼門に吊るされ、さらに夏は伝染病が流行りやすいことから魔除けの役割も期待されたと考えられています。

その後、「江戸風鈴」をはじめ「南部風鈴」や「小田原風鈴」など、各地の風土を生かした風鈴が誕生。現在も伝統工芸として、その技が受け継がれています。