長谷川栄雅と「日本の美」

2022.08.19

実は謎だらけ?夏の風物詩「ところてん」

ツルツルとしたのど越しや、さっぱりとした味わい、透き通った見た目で暑い季節にうれしい「ところてん」。多くの人に愛されている身近な食材ですが、語源や各地の食べ方の違いなど、実は不明点が多い食材でもあります。今回はさまざまな説から、ところてんの謎や魅力に迫ります。

独特の響きの語源とは

夏の風物詩になっている「ところてん」。日本における起源は明確にわかっていませんが「飛鳥時代の仏教伝来と共に」、あるいは「奈良時代に遣唐使が製法を中国から持ち帰った」といわれています。

その後も平安時代頃までは貴族しか口にすることができず、庶民が口にできるようになったのは江戸時代。江戸や京都などに天秤棒をかついだ「ところてん売り」が登場しました。

「ところてん」は漢字で「心太」と書きます。その独特の響きと漢字になった由来には諸説ありますが、代表的なものは「心天(こころてん)」が「心太(こころふと、こころぶと)」に変化し、やがて「ところてん」と呼ばれるようになったという説です。日本に伝来した当初、ところてんはテングサを煮凝りにする製法から「凝海藻(こるもは)」と呼ばれていました。これを「天付き」という器具で麺状に押し出すため、「凝る」が変化した「心」と「天」で「心天」に。

やがて「天」が、海藻を意味する「太」に変化し、「心太」となりました。それが時代の変化と共に「こころたい、こころてい」などと呼ばれるようになり、最後にところてんとなったといわれています。

また他には、関西地方の方言の「とごる(凝固する)」と、「テングサ」を掛け合わせた当て字という説もあります。

 

関東では酢醤油、関西では黒蜜で

ところてんは、関東と関西で食べ方が異なることをご存知でしょうか。主に関東では酢醤油で和からしなどを混ぜて食べられ、食卓のおかずとされることもあります。一方、関西では黒蜜やきな粉をかけ、間食や食後の甘味として味わうのが一般的です。

このような違いが生まれた理由もまた、さまざまな説があります。その一つが、関西でいち早く砂糖が普及したためとする説です。元々、日本に伝来した頃のところてんは、酢や醤油で食べられており、それが全国に広まりました。しかし、関西の貴族の間では、中国から伝わった砂糖が流行しており、黒蜜で甘みを加える食べ方が生まれたといわれています。江戸時代に庶民がところてんを口にできるようになった頃でも、関西では黒蜜で食べる習慣は変わりませんでした。これは大阪に砂糖の卸業者が集まっていたことから、関西では庶民の間でも、ところてんを甘くする文化が定着したと考えられています。

 

まだある各地の特色。名古屋は箸一本で

ところてんの食べ方の違いは関東、関西に留まらず、全国各地で見られます。その中でも珍しいのは東海地方や新潟県などに根付いている食べ方。この辺りの地域には、ところてんを箸一本で食べる習慣が定着しています。

これは、かつてところてんが傷みやすい食材だったため「箸一本ですくい、すぐ切れないか確かめていた」という説、「箸でつまんで切れると縁起が悪いから」という説などがあります。また、名古屋は関東と関西の中間に位置していることから、酸味と甘味の両方を味わえる「三杯酢」で食べることが多いという話も。

この他にも、高知県では特産のかつお節を使った「かつお出汁」で、沖縄県では泡盛のもろみ粕から作られた「もろみ酢」で食べることが多いなど、各地に個性的な味わい方が盛りだくさん。この夏にはいつもと違った食べ方で、ところてんを楽しんでみてはいかがでしょうか。