長谷川栄雅と「日本の美」

2022.06.17

日本の文化が育んだ「折り紙」

日本の伝統的な遊びとして老若男女に親しまれ、海外でも知られる「折り紙」。その神事から始まった歴史や独自の進化を遂げた背景など、奥深い折り紙の世界に迫ります。

神事に始まった折り紙の歴史

日本に紙と製紙技術が伝わったのは、6世紀の終わりから7世紀頃。中国から朝鮮半島を経て伝わりました。その後、遣唐使の廃止により、日本の製紙は独自の進化を見せることに。「流し漉(ながしすき)」という技術が編み出され、和紙が生まれました。

平安時代には宮中の女性たちが和歌を詠む際に使用するなど、当時、紙は文字を書くことが主な目的でした。しかし、従来の紙に比べて、丈夫で美しい和紙の開発により、やがて手紙を折り畳んだり、贈りものやお供え物を包むなど、神事や儀式に用いられるようになりました。

特に多彩な文化が花開いた室町時代には、さまざまな流派の礼法が確立され、現在も一般的な熨斗包みなどの原型が整えられました。そして、折り紙が今のかたちになったのは江戸時代。製紙技術の向上によって庶民も色付きの和紙が手に入るようになり、それまでの礼法から離れ、折り紙が遊びとして楽しまれるように。折鶴などもこの頃に考案され、1797年に出版された『秘傅千羽鶴折形』には、49種の連鶴の折り方が掲載されていいます。

明治時代以降になると、洋紙の普及によって折り紙が大量生産され、遊びはもちろん、子どもの教材に利用されるなど、全国へ急速に広まりました。

 

日本で折り紙が発展した理由

先に製紙技術が確立した中国や朝鮮と比べて、日本では遊びや教育に使われるなど折り紙の文化が発展しました。その要因や背景として考えられている3点をご紹介します。

1.加工しやすい「和紙」の誕生

中国から伝来したのは「溜め漉(ためすき)」という手法でしたが、日本ではより高度な技術が求められる「流し漉」が考案され、美しさと耐久性を持つ和紙が誕生。紙が扇子や障子など、生活の道具としても多用されるようになりました。

なお10世紀の奈良時代頃まで紙漉きは国の仕事で、専門の職人が担っていました。その後、需要が増加したことで地方でも紙が作られるようになり、室町時代には越前国(現在の福井県)の『越前奉書』という和紙が人気となるなど、特産地も生まれました。

2.方形・直線の美意識

方形に区割りされた水田、ヒノキやスギを原木に直線が多用される神社建築様式など、古くから日本人の暮らしにとって方形や直線は欠かせないもの。そのかたちに美しさや神秘性を感じる意識が育まれています。

3.折り畳む習慣

日本では、寝具や衣服を畳んで仕舞う習慣が残っています。ものをきれいに折り畳むという行為が根付いていたことから、折り紙も器用にこなすことができたのかもしれません。

 

世界中で愛される「ORIGAMI」

日本で独自の発展を見せた折り紙は、紙が1枚あれば楽しめることもあり、「ORIGAMI」としてアメリカやヨーロッパ、中国など世界中で愛されています。

国内外では折り紙の大会も頻繁に開催。特に人気の高いアメリカでは、日本以上に思考力を鍛えるツールとして捉えられており、教育現場で積極的に採用されています。英語で書かれた教育のための折り紙本も数多く出版され、ワークショップも多く開かれています。

普段の生活では、なかなか接する機会がない折り紙。久しぶりに挑戦してみると、作業に没頭することで集中力が高まる、心が落ち着くなど、子どもの頃とは違う新たな魅力にふれられるかもしれません。