2021.07.21
献上品になるほど貴重だった「氷」
現在では当たり前のように身近にある「氷」。しかし貯氷・製氷技術が低く、冷蔵庫などがない時代には、夏場の氷は大変貴重なものでした。すでに奈良時代には山中の穴蔵など、冷涼な場所に氷の貯蔵庫「氷室」が作られていたと考えられ、冬の間に池などにできた天然の氷を保存して夏に切り出し、天皇や貴族への献上品としていました。
清少納言の『枕草子』には「削り氷(けずりひ)」というかき氷のようなものが登場し、また紫式部の『源氏物語』には氷水を飲んだという記述が見られるなど、当時は贅沢品として扱われていたことがうかがえます。
江戸時代には日本海側の北国の氷を、船を使って大量に江戸へ運べるようになりますが、まだ庶民には手が届かない貴重なものでした。なお、この頃に人気となったのが和菓子の「琥珀糖」。「割氷(わりごおり)」「氷室」などとも呼ばれ、氷を思わせる涼やかな見た目とシャリッとした食感が評判を呼びました。
明治時代になると日本初の氷屋が横浜に開業するなど、氷が庶民にも身近な存在となり、口にして涼をとるほか、食材の保存や医療などにも広く役立てられるようになりました。